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ナイル(Nyle Inc.)の統合型事業の事業戦略と成長モデル

2025.06.14
コラム

 「ホリゾンタルDX事業」と「自動車産業DX事業」による新たな価値創造

 

■ ナイル株式会社 代表取締役社長 高橋 飛翔

ナイルは、DX支援やマーケティングを手がける「ホリゾンタルDX事業」と、自動車リース事業「カルモくん」を展開する「自動車産業DX事業」の二つの事業を運営しています。

一見異なる分野に見えますが、ナイルは両事業を有機的に結びつけることで、独自の成長モデルを築いてきました。

ホリゾンタルDX事業で培ったデジタルマーケティングやデータ活用のノウハウは、自動車産業DX事業の拡大を支え、一方で自動車リース事業を通じて得た市場知見がDX事業の精度を高めるという好循環を生み出しています。

さらに、M&A戦略や事業開発を通じて、新たな市場機会を創出し、両事業の成長を加速させています。

本記事では、ナイルがどのように二つの事業を統合し、それぞれの強みを活かしながら新たな市場を開拓しているのかを掘り下げていきます。

PDFファイル URL:http://strategy-campus.jp/topics/wp-content/uploads/2025/06/Interview_NyleInc.pdf

 

ナイル株式会社 代表取締役社長 高橋 飛翔氏

 

■ 事業運営の特徴とパートナー企業との協業戦略

−− DXやマーケティングなどを提供する「ホリゾンタルDX事業」と自動車リースの「カルモくん」を提供する「自動車産業DX事業」を運営する上で、2つの事業の大きな差分はどういったところにあるとお考えでしょうか。

自動車産業DX事業は、プロダクトを作り込むという観点で、「ホリゾンタルDX事業」よりも市場をより深堀りしていることが、事業を運営する上で大きな差分と考えています。

ホリゾンタルDX事業におけるコンサルティングビジネスは、顧客のマーケティング課題やDX課題に対し適切な助言を行い貢献していく事業であり、顧客数が限定的(数百社)な中で、顧客に合ったものを如何に提供していけるかが重要となります。

一方、カルモくんの場合は、月間で数百件の顕在顧客がいて、リード顧客で言うと月間数千件にも上ります。

自動車を持ちたい方は絶対数が多い分、ニーズが多様化しており、どこからプロダクトを作るべきかを考え、どのような顧客ターゲットに対して、どういった便益を届けていくかを考えていく必要があります。

 

−− なるほど。顧客層の違いからプロダクトの作り込みが変わってくるんですね。

はい。また、自動車業界は制約や法規制が多くあり、提携先のカーリース事業者、ローン会社などで、既定のオペレーションに新しい内容を追加することは中々に難しいです。

プロダクトを作成する際、どういったターゲットに対して、どんな商品を出すか、各提携先のパートナー企業に対して、どういったメリットを提示するかなどを考えていかないと進みません。

また、自動車業界の歴史は長く、レガシーな企業と一緒に取り組んでいくことにも難しさがあります。

 

−− やはり、歴史が深いだけ新しい取り組みを推進するのは難しいんですね。

仮にパートナーのディーラー企業の事情を考慮せずに、「顧客のニーズから○○のような機能・サービスがあればいいじゃん。」で進めることは難しいのでしょうか。

機動的に動くのはとても難しいです。

パートナー企業へ「○○のような機能・サービスがあったらいいですよね」と提案することもあるのですが、やはりすぐには取り組めないと言われることは多いです。

 

−− なるほど。では、カルモくんの事業を立ち上げていく中で、自動車業界やディーラーとの接し方は徐々に理解されていったのでしょうか。

パートナー企業と接する中で、徐々に自動車業界やディーラーの時間軸がわかってきました。

また、事業を進めていく中で、先方にプランを提示すると、「それは○○といった理由でできません。」などとフィードバックをいただくごとに、各社の考え方や特色が整理されていき、刺さるサービスや進め方なども理解していきました。

 

−− パートナー企業と新しい取り組みを進めていく際、ナイルとパートナー企業のどちらから起案・発信されることが多いのでしょうか。

新しい取り組みを起案するのは、圧倒的にナイルからの発信が多く、ナイルからが9割、パートナー企業からが1割ほどです。

 

−− パートナー企業と新しい取り組みを協議し、ブラッシュアップされていく中で、先方からどのようなリクエストがあるのでしょうか。

サービスに対する実現可能性などをフィードバックいただくことが多いです。

例えば、まだ実現できていないんですが、「解約違約金のかからないカーリース」のサービスを作りたく、今まで何度も提案し議論してきています。

なぜ「解約違約金のかからないカーリース」を作りたいかというと、途中の解約金・違約金をなくすことで、お客様はカーリースを前向きに検討してもらえるようになるからです。

一方、「中途解約の違約金がかからない。」=「その分の費用が月額に反映される。」ことになりますので、月額に費用が反映された再、今の顧客層に対して逆に売りづらくなってしまう面もあります。

また、パートナー企業からは、既存のオペレーションに加え、新しいオペレーションを追加することとなり、売れる確証性がないサービスに対しては本格的に取り組むことが難しいとフィードバックいただいています。

 

−− 一般的にも、大手企業と新しい取り組みをする時は、事業に対する確証性や時間軸の違いが生じることが多いですよね。

そうですよね。

一方、時間軸でいうとナイルでは半年で変えられることが、パートナー企業との取り組みでは約2~3年になりますが、パートナー企業に対して、新しい取り組みについての交渉を繰り返していくうちに、先方の理解や動きなども徐々に変わってきていると思います。

比較的早くご対応いただいた例としては、当社向けに提供していただいているリース料金の価格表のフォーマットは変更いただいています。

また、紙の誓約書を完全にオンラインで完結する取り組みは、5年間かけての事例となり、今年(2025年)に変更いただける予定となります。

 

−− 大手企業のリース会社からすると、ナイルとの提携を通じた新規事業は、先方にとって戦略転換など、何か意義はあるのでしょうか。

大手企業からすると、ナイルとの業務提携によって業績が伸びることには大きな意義は感じて頂けていると思います。

一方で、ナイルとの提携を通じて全社の風土などを変えるなどの影響力を持つまでにはかなり大きなハードルがあると思います。

 

 

 

■ 事業の意思決定スキームと経営体制の変化

−− ナイルにおける各事業の意思決定の座組や仕組みは、どのようになっているのでしょうか。

ナイルでは、各事業で事業戦略ボードを設定しており、事業部内で意思決定されたものが事実上、企業としての決定事項となる座組で運営しています。

事業の現場で起きていることを機動的に意思決定することを大切にしているので、各事業戦略ボードのメンバーも意図的に変えており、意思決定の座組も各事業に適した形に柔軟に変更しています。

固定メンバーで行ってしまうと、事業の主役でない人が事業の方向性を決めることとなり、判断が遅くなったり、正確性や解像度の低下に繋がります。

例えば、ビール事業に携わっている人が、食品事業に口を出すと、やはり良い意思決定をできないし、食品事業の現場の方々も嫌な思いをすると思います。

 

−− 現場からの視点を考えると、事業に関りがない人が意思決定には入らない構造は大事ですね。

また経営を多極分散型でやるための取り組みとして、「Nギアス」という経営制度を設けていました。

「Nギアス」は執行役員が増えた2022年から始めた制度で、経営テーマを9つのテーマに分類し、各執行役員がテーマに入り、各ボードの中で機動的に意思決定をするという仕組みで、社長の私が担っていた意思決定を執行役員に委譲しました。

 

−− 執行役員が各事業のボードメンバーになる仕組みで運用されていたんですね。

制度は上手く機能しているのでしょうか。

現在は「Nギアス」の制度は廃止しています。

今から「Nギアス」を振り返ると、事前の制度のヨミは半分正しくて、半分間違っていました。

ヨミが間違っていた部分として、執行役員のレイヤーと役員のレイヤーに能力や経営経験に差があったことが挙げられます。

ボードメンバーの能力に差がある分、機能している事業戦略ボードと機能していない事業戦略ボードが存在していました。

執行役員が担うレイヤーがグダグダになると、その事業のガバナンスが効かなくなり、事業戦略ボードが機能しなくなります。

 

−− なるほど。ボードは事業に携わる深さや意思決定の経験、各人の素養などに差が出ますよね。

現在はどのように運営されているのでしょうか。

私と一部の役員が全事業をみるようにしています。

例えば、事業にボードメンバーが5人いる際、2人は固定メンバー、3人は現場メンバーという構成で運営しています。

固定メンバーの2人は、現場ほど事業に触れる機会がないものの、企業全体を把握している観点などから議論や意思決定を行っています。

「Nギアス」を通して学んだこととして、多極分散に振りすぎると逆の効果が出てしまうこともあります。

なので、一部の解像度が高いメンバーが横ぐしで事業ボードを管理し、残りの事業ボードを現場の手触り感があるメンバーに担ってもらう多極分散型で行う運営体制に落ち着いています。

 

■ 採用と組織運営の変化

−− 企業の立ち上げ初期にメディア・コンサルを展開されていた時と「自動車産業DX事業」も展開されている現在とで、採用する人や採用プロセスに変化はありましたでしょうか。

新たに事業領域が増えるにつれて、採用したい人の要件は変化していき、今は事業部別に採用要件を定義しています。

また、職種や報酬体系、役割は、人事領域の役員と他数名の役員が集まり、職種と役割に対する報酬は妥当かを議論する場を設けていて、全社的に不透明に給料差が出ないようにしています。

 

−− 役員陣で採用者の報酬体系の妥当性などを検討されているんですね。

その会議では、採用者の会社へのカルチャーフィットなどもみるのでしょうか。

採用者の会社へのカルチャーもですが、主にバリューマッチをみています。

採用者の報酬体系として、オファー面談シートに、職種や役割、給料に合わせた入社3カ月後・6カ月後・12カ月後に担っていただきたい業務レベルを記載しています。

面談シートに記載ある業務レベルができるまでは報酬はフラットとなり、それ以上の業務レベルになると昇給昇格するシステムになっています。

現状の内定受諾率は80%と高く推移しており、経営層と採用者の給料や報酬体系に対する認識齟齬が起きず、入社されてからも変に給料や報酬体系で問題になることはなく、上手く機能しているかと思います。

 

−− 採用時点でその方の期待値も伝えられているんですね。

内定者が80%と高く推移されていますが、採用者からはどのような反応が多いでしょうか。

この報酬体系のシステムは、合理的に作られているので、採用者から報酬体系に対する納得度も高いです。

特にサービス業で働かれていた方は、報酬体系がブラックボックスになっていることに悩まれている方が多く、このシステムに対する反応は良い方が多いです。

 

−− ナイルの立ち上げ当初に入社されてきた方と現在入社されてきている方では、モチベーションにどのような違いがありますでしょうか。

ナイルの立ち上げ当初に入社されてきた方は、事業の「0→1」にモチベーションを高く持たれている方が多かったです。

立ち上げ初期のメンバーの中には辞めた人も、まだナイルに在籍している人もいます。

在籍している人は変わっていく環境の中でうまく適応し、過去をアンラーニングして新たなやり方に順応していく人がほとんどですね。逆に立ち上げのやりがいを大事にする方はやめてより立ち上げ期に近い会社に入社しているように思います。

 

−− 企業のフェーズごとに従業員のマッチ度合いも変わってきますよね。

そうですね。これは仕方がないことと私の中では許容しています。

もちろん、従業員には各々の人生があり、ナイルでマッチしなくとも他に良い場所があると考えていて、各人の決断や判断に干渉しないようにしています。

 

−− 現在入社されてきている方のモチベーションはいかがでしょうか。

創業当初と違って、「0→1」のヒリヒリ感はないですが、今あるモノでどのように事業を大きくするか、どのように働くかを考えることに楽しさを見出せる方が多いです。

現在入社されてきている方は、一定規模の人数で業務をすること、既に一定の売上ある事業であることなどを認識されて入ってきているので、業務内容に対する認識違いなどもほとんどありません。

 

■ マーケティング戦略と内製化の強み

−− 他社のカーリース事業では、マーケティングを外注している企業が多いと考えています。

一方、ナイルのカーリース事業のマーケティングは、自社のマーケティングのノウハウ・ナレッジを活用されており、他社との差別化要素はどうのようにお考えでしょうか。

カーリース事業のマーケティングを自社で行うことによる差別化要素は多数あります。

例えば、マーケティングにかけられる人的リソースが、外注する場合と自社で行う場合に大きく変わります。

外注であるとマーケティング会社に預けた広告費用の割合から当てられる担当者の人数を決めることが多いです。

例えば、お客様の広告予算が1,000万円/月で粗利20%を想定すると、マーケティング担当者の一人月の単価が50万円/月程度となるので、付けられる人数は1人程度となります。

広告予算が5倍の5,000万円になったとしても、マーケティング担当者の人数は5人です。

一方、ナイルの場合は、カーリース事業の広告予算や業務量に合わせて担当者の人数を柔軟に変えられ、根本的に人月の考え方の違いが差別化要素となります。

また、外注すると依頼主と外注先との間の会議や社内稟議の調整など、コミュニケーションコストや間接的工数が生まれてしまいます。

これは内製化することで発生せず、マーケティングの細かなチューニングなども機動的に行え、外注することとの差別化要素となっています。

 

−− マーケティングにかけられる人員数やコミュニケーションコストなどの観点で、内製化の強さが出てくるんですね。

反対に「自動車産業DX事業」をやっているからこそ「ホリゾンタルDX事業」が強まることもあるのでしょうか。

もちろん「自動車産業DX事業」が「ホリゾンタルDX事業」に与える良い影響も多くあります。

「自動車産業DX事業」に取り組むまでの、メディア・マーケティングに関するサービスはSEOやコンテンツマーケやサイト改善にとどまっていました。

事業として自動車リースに取り組むためには、上記のメディア・マーケティングの施策は当然行った上で、インサイドセールスやリードナーチャリングなどにまで領域を広げる必要があります。

コンサルティング領域も、深く幅広いバーティカルなコンサルティングが行えるようになりました。

また、「ホリゾンタルDX事業」の事業紹介でも、「自動車産業DX事業」で培ったリードナーチャリングのノウハウを「ホリゾンタルDX事業」に活かされていると事業の強みとしてお伝えしています。

 

−− コンサルティング事業・マーケティング事業だけでなく、自社で商材を扱っていることはお客様にとっても説得力が強くなりますよね。

事業で得られた知見の社内での共有はどのようになされているのでしょうか。

サービスに対するフィードバックを共有する部門をまたいだ共同会議や各人の知見が他の事業でも活かせるように、部門の兼務も推奨しています。

ずっと同じ領域でしていると、考え方が凝り固まってしまうことや、仕事に対するモチベーションの簡単でも一定の領域でレベルが高くなると他の事業に行きたいという人もいます。

一般的には兼務はあまり良くないと言われますが、一定程度組織になじめており、業務に対して新しい刺激を欲していて、既存の業務で結果を出していれば、兼務は良いと考えています。

 

−− ナレッジを共有するためにも兼務も推奨されているんですね。

また、部門をまたいでサービスのフィードバックを共有することも大切ですよね。

企業規模が大きくなるにつれ、物理的にもお客様の声が共有しにくくなります。

なので、私たちは、意図的にセールスとマーケティングの共同会議は行っており、お客様からのフィードバックを反映させていて、その内容をパートナー企業にも共有しています。

 

−− 意図的にフィードバックを共有する仕組みは大事ですね。

カーリース事業でマーケティングを内製化しているから生じるデメリットはあるのでしょうか。

マーケティング担当者からすると携われるサービスが限られますので、キャリアプランが設計しにくいことがあります。

また、事業が停滞してしまうとキャリアも停滞してしまいます。

他には、内製化していると受託と違い、顧客企業など外部の方と接する機会が限られてしまい、社内の慣れている方だけのやり取りとなり、自己成長に真剣に取り組める人でないと気が緩みやすいということもあります。

 

−− マーケティングの担当者は、顧客企業とのやり取りの中で、成長する部分もありますよね。

気が緩むこともあるとのことですが、どのようにして引き締められているのでしょうか。

そこはマネージャー次第だと思います。

社内にシビアにフィードバックできて、自分にも厳しいマネージャーであれば十分に部やチームの気を引き締められると考えています。

一方、マネージャーの社内でのポジションやキャラが、ゆるいものであると引き締めるのは難しいと考えています。

 

−− なるほど。では、カーリース事業のマーケティングを担当するとなると、担当者の役割や目標はどのように決められるのでしょうか。

カーリース事業のマーケティングチームは、広告全体と各媒体に目指す指標があり、各人の目標というよりもマーケティングチーム全体で目標が設定されています。

 

 

■ 事業成長のターニングポイント

−− カルモくんのサービスローンチから6年ほど経ちますが、事業に大きな転換タイミングなどはありましたか。

大きな転換点は、日本で初めて11年という長期の自動車リースをローンチできたタイミングです。

それまでの最長は9年でしたが、ずっと前からパートナー企業にも期間を伸ばしたいことを伝え続けていました。

すると、ある時、パートナー企業の方から「リース期間の延長を検討しますか。」とお伝えいただき、月額を下げるなど試行錯誤することで11年のリースが実現できました。

 

−− パートナー企業に伝え続けて実現されたサービスなんですね。

リース期間の延長はお客さんへのヒアリングなどで欲しいと言われていたのでしょうか。

いえ、お客さんから直接は言われていないです。

リース期間を延長し、9年リースで月額を下げて提供していても、価格が高いと言われていました。

それならばと、11年リースであると月額がもっと下げられるので、サービスの作成に至りました。

 

−− ローンチされてからのお客様からの反響はいかがでしたでしょうか。

11年リースの反響は高く、現在はリース契約の約6割が11年リースで契約いただいています。

 

−− すごい盛況ですね。他にお客様からのヒアリングから付加したサービスなどはありますか。

アフターサービスもお客様からのフィードバックから付けたサービスとなります。

立ち上げ当初はアフターサービスがなく、サービスを展開していく中で、お客様から「メンテナンスサービスなどはないのでしょうか?」とお聞きいただくことあり、立ち上げから約1年でアフターサービスを提供し始めました。

 

−− アフターサービスもお客様からの気づきだったんですね。

ローンチ当初から事業・サービスの改善・改良はどのようになされていたのでしょうか。

ローンチ初期は、カーリース事業はあまりうまく行っていませんでした。

実際、サービスを2018年2月にリリースしましたが、初めての契約が2018年4月なので、振り返ってもスロースタートだったと思います。

ローンチ当初は、お客様からの質問やフィードバックの全てが我々が備えていないものばかりで、お客様の声を聞いて必要ならばすぐ開発していきました。

大手企業では市場にローンチして、一定期間の経過をみてから次の手を考えるなどの教科書通りの動きもありますが、ベンチャー企業はそうはいかないことが多いです。

やはり、日々、お客様からの声や意見と社内で仮説として考えていることを加味して、事業をアジャイル的に瞬発力を使って、細やかにチューニングしながら進めて行くことは意識してやっていました。

 

−− アジャイル的に事業を推進されていたんですね。

ローンチ後2ヶ月間売れなかった時から、成長軌道に乗った要因はどういったことろにあるとお考えでしょうか。

成長軌道に乗った要因には、いろんなものがあります。

例えば、「営業メンバーのセールスオペレーションの改善」や「契約が取れそうな時にどのように契約を処理するかのバックヤードのオペレーションの改善」、「広告・マーケティング施策」など、全てが成長軌道に乗る要因となっています。

なので、どれか単一の事象がというよりも、その時々に必要なこと全部をやり切ったことで、事業が軌道に乗っていったと思います。

 

−− なるほど。では、ローンチ当初の低空飛行期間では、「根本的にサービスがイケていないのでは?」などと懐疑的に思うことはなかったのでしょうか。

「サービスがイケてないのか?」と思うこともありましたが、反対に「上手くいく」という思いも強く持っていましたので、続けられていたと思います。

 

−− 自分たちのサービスを信じるのは大切ですよね。

ローンチ当初の固定費用はどの程度かかっていたのでしょうか。

固定費は賃借料と人件費のみで、従業員が5~6人でしたので、月200~300万円程度でしたので、コストの面はなんとか踏ん張れていました。

 

 

■ M&A戦略とその狙い

−− 24年7月にパティオをM&Aされましたが、どういった意図でM&Aされたのでしょうか。

車をオンラインで買う消費者は少数派であり、オフラインのリアルな面を持っていた方が集客面や既存のオンラインのカーリース事業でも相乗効果があると考え、M&Aに至りました。

また、自社でもオフラインでディーラー事業を行っていた時期もありました。

自社での経験も経て、自前では中々上手くいかないと理解し、M&Aしかないと考えました。

 

−− 自社でディーラーのリアル店舗事業を展開されていた時期があるんですね。

自社では上手く行かなかったポイントはどのようなところにあるのでしょうか。

上手く行かなかったポイントは「仕入れ」です。

ディーラー事業の要となるのは「仕入れ」で、オークションや店頭で仕入れるにしても、物凄くノウハウが必要になり、車がどの程度の価格で売れるかなどの目利きは長年の蓄積からくる職人芸です。

ディーラー事業が上手くいくかどうかは「仕入れ」に尽きると思います。

 

−− ディーラー事業では、仕入れが最も重要なポイントなんですね。

ディーラー事業の集客は、特段な問題はなかったのでしょうか。

集客は、大手プラットフォームである「グーネット」や「カーセンサー」などを使いこなせれば上手く行えていました。

 

−− 集客は仕入れほどの課題にならないんですね。

では、リアル店舗のディーラーのM&Aを検討され始めたのは、いつ頃からでしょうか。

上場前は上場審査があったので、M&Aは行えなかったので、上場した直後から探し始めました。

M&A先は自分たちで探していて、パティオを知った経緯は、大手のM&Aプラットフォームのサイトで、初めてアポを入れた企業がパティオでした。

パティオのM&Aを検討されていた企業は、ナイルの他に4社ほど競合企業がいましたが、交渉の末M&Aにいたりました。

 

−− M&Aの候補となる企業はご自身たちで探されていたんですね。

パティオのリアル店舗事業は、既存のカルモくんのオンラインカーリース事業とどのように関わっているのでしょうか。

パティオとカルモくんの事業は、連携して進めています。

例えば、パティオで仕入れた在庫をカルモのオンラインデータと連携させて、リースとして販売もしており、その逆もあります。

他社の在庫を販売するよりも、自社の在庫を売った方がグループとして拡大できます。

また、パティオとカルモくんの事業をまたいだクロスセルも行えています。

例えば、パティオのリアル店舗では、人が限られることから車を販売したお客様に、その場でメンテナンスサービスなどの案内を行うことは難しいです。

一方、パティオでご購入いただいたお客様に、定期的にカルモくんのメンテナンス・修理サービスをご案内することで、顧客との接点も増え、受注件数も伸ばせます。

 

−− 以前、成長速度を担保するには、自社でアセットを抱えないことが大切と仰っていましたが、リアル店舗事業で在庫を抱える不安はございませんでしたか。

やはり、在庫を抱えることは事業を進める上での要モニタリング事項であるべきかと思います。

在庫として300日以上抱えているものなどは元本割れのリスクが懸念されるので、ルールを作り何カ月抱えているものは損切でも売る仕組みを整備しています。

 

−− パティオとナイルは事業の面で、リアルとオンラインで異なり、カルチャーも違ってくるかと思いますが、どの程度企業カルチャーや人事制度は統合されているのでしょうか。

企業カルチャーは異なりますが、ナイルの企業カルチャーに揃えてしまうとM&Aしたことの意味が薄れてしまうと考えています。

パティオはパティオの企業カルチャー、ナイルはナイルの企業カルチャーとして、お互いに敬意を払って企業を運営しています。

ナイルとパティオの関係は、連邦国家のように「グループ間で合理性のあることは協業して進めていく。」という握りがあるだけです。

例えば、パティオは創業から28年間同じ経営者が経営をされていたので、ナイルから見て合理的でないこともあります。

客観的に考えて、合理的でないことは、取締役としてナイルから私(高橋)を含めた2名が入っているので、パティオの方々と一緒にアップデートしていっています。

 

−− M&Aを実行されてから、難しいと感じられたところはありますか。

M&A後は特段難しいと感じることはなく、今のところ出来過ぎるくらい円滑に事業を進められています。

 

−− 上手く進められているんですね。

M&Aのデュー・デリジェンス(DD)の時から、パティオとコミュニケーションがとりやすいかなどは見られていたのでしょうか。

DDの際、パティオの人や組織がナイルとマッチするかはみていましたし、反対にナイルの人や組織がマッチするかも見てもらっており、当時の代表の方とも密にコミュニケーションをとっていました。

また、カーセンサーやグーネット、Googleのパティオの口コミもみていましたね。

一方、パティオの社員の方々がITツールをどの程度使えるか、社員の方々のモチベーションなどは実際にM&Aするまではわかりませんでした。

 

−− M&A前は情報の取り扱いがセンシティブなので、現場の社員の方とは実際にお会いするのは難しいですよね。

そうなんですよね。

なので、覆面調査として、お客さんとしてパティオの店頭に行き、従業員の方々がどのような方かをみたりしていました。

また、M&Aを実行するまでわからなかったことで、最もドキドキしていたことは、新しい代表の方についてでした。

M&Aを実行するまでは、創業者の前代表の方から、新しい代表にM&Aの話をするのは、M&Aを確定した時にして欲しいと条件として言われていました。

創業者のその意図としては、先に新代表と話して、万が一社内に広まると現場が混乱してしまう可能性があるからでした。

 

−− 新しい代表の方と会話せずにM&Aを決断されたんですね。

新しい代表の方がどのような方かわからないリスクはどのように乗り越えられたのでしょうか。

本当にドキドキでしたが、最悪のケースになった場合、創業者に再度戻ってもらえたらいいかと考えて、M&Aに踏み切りました。

一方、M&A前に想定していた最悪ケースと真逆で、新しい代表の方が非常に能力もあり人格も良い方で良かったです。

−− なるほど。M&Aは実際にやってみないとわからないことが多くありますよね。

 

 

■ ナイルのポジショニング戦略

−− 自動車業界の中で、様々なポジショニングが考えられるかと思いますが、ナイルのポジショニングはどのようにお考えでしょうか。

自動車業界の小売の領域はやり切りたいと考えています。

今興味ある領域は、業販(B2Bの自動車売買)や下取り買取などです。

 

−− 自動車の小売なんですね。自動車以外の他の産業は想定されていますか。

目下は、自動車産業でやり切ろうと考えています。

自動車産業は、圧倒的にTAMが大きいので、簡単に取り切れるものでもありません。

自動車産業でまだまだやり切れていませんし、投資回収も行えていないので、利益回収をしていきたいです。

 

−− 「ホリゾンタルDX事業」の成長戦略はどのように考えられておられますか。

「ホリゾンタルDX事業」は、商材の幅を広げ、B2B向けの法人支援のソリューションをひたすら作っていこうと考えています。

また、一般的にSEOは過小評価されていると思っていて、私たちはSEOのコンサルティングにも注力しています。

検索のボリュームの観点で、SEOはマーケティングオートメーション(MA)やチャットボットよりも圧倒的にSEOの方が多いです。

消費者は検索する際、現状はSNSかSEOくらいであり、SEOを窓口にして顧客にサービスを提供することは、マーケティングの観点で非常に良いと考えています。

一方、SEOだけでは顧客企業の中期的な成長に貢献できるのは限定的なので、SEOをフックにして様々なソリューションを提供していくことで、顧客企業の中でナイルのプレゼンスを上げていきたいと考えています。

 

−− 私もSEOは過小評価されていると考えていました。

私の友人にSEO事業を売却した人がいるんですが、その方に「もう一度事業をするなら?」と聞くと、「トラフィックも落ちていないので、もう一度SEOメディアを立ち上げる。」と言っていました。

新しいマーケティング手法に注目が集まりがちですが、B2C・B2BのSEOはまだまだいけると考えています。

中村さんも同じ考えなんですね。

SNSはマッチする領域がかなり限定的だと考えています。

例えば、Instagramは、ファッションやエンタメ、化粧品などの領域では効果的ですが、自動車は売れません。

一方、現時点ではSEOはどの領域の会社でも無関係にはいられません。

 

−− そうですよね。マーケティングの領域ではどのようなラインナップを増やしたいとお考えでしょうか。

企業向けに生産性を高めるための生成AIを活用した領域は注目しています。

また、実行支援の領域も興味があります。

一部のコンサルティングファームと似たモデルになりますが、人を派遣して顧客企業の仕事をサポートする領域に参入できればと考えています。

−− 実行支援の領域にも目を向けられているんですね!

派遣型のビジネスは社員の採用と教育など組織力が問われる事業になるかと思いますので、今後また違ったナイルの姿をみられるのが楽しみです!

 

 

 

□ ナイルとは

会社名:ナイル株式会社(英文名 Nyle Inc.)

所在地:東京都品川区東五反田1丁目24-2 JRE東五反田一丁目ビル 7F

代表者:代表取締役社長 高橋 飛翔

設立日:2007年1月15日

会社情報URL:https://nyle.co.jp/

 

□ ストラテジーキャンパスとは

会社名:株式会社ストラテジーキャンパス

本社所在地:東京都渋谷区神宮前六丁目23番4号 桑野ビル2階

代表者:代表取締役社長 中村 陽二

設立日:2020年9月

会社情報URL:https://strategy-campus.jp/

 

 

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