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自社が対象とするべき事業領域

2024.08.27
コラム

課題意識:戦略的に定めた対象領域の不在が招く症状

「新たな事業を考えよう」という際に「どこを対象にして考えるべきか」という議論は当然必要となる。対象領域を規定せず、完全にボトムアップに任せると、偶然生活の中で思いついたアイデアが多く挙がり会社の戦略とは一致しない傾向がある。

そもそも事業領域が定まっていないというのは長期戦略の不在が背景になっているのではないか。長期戦略とは即ち、「自社の目標はXである。現在保有している能力はYである。Xを達成するためにはZという事業領域において成功をすることが前進を意味する」ということである。

長期戦略が提示されないならば、極めてランダム性が高く分散した領域において事業案が経営陣向けに提示されることになる。領域が分散しているならば各検討する事業毎に情報、知見、顧客基盤は共有することが出来ないことに加え、毎回個別の事業案毎に特定の領域に参入するべきか否かの是非を議論することとなる。

戦略的妥当性がない領域へ会社が参入をする意思決定をする確率は高くないため、「自社がやる意義がわからない」という理由で否決されることが多く、提案者はモチベーションを落とす。

事業領域を絞り込むことで得られる効果:

1.意思決定の高速化:

経営として投資意思がある事業領域を規定することが出来れば、次なる論点としては「提案された方法で攻略をすることが出来るか」という点になる。
「そもそもこの領域へ行くべきなのか」という論点に関しては決着しているので、参入戦略に集中をすることができる。検討をする担当者らも、そもそも参入意思を持っていない領域への参入戦略を検討するという無駄を減らすことが出来る。

2.ボトムアップでのインサイト発見

参入戦略を描くためには実際に顧客や先行者らと対話を繰り返すことが必要となる。これを特に大企業の経営陣が自ら行うことは現実的ではない。
実務に携わっている営業担当や開発担当が練り上げていくことが妥当である。対象としたい事業領域を明示すれば、適切な担当者らによる自主的なインサイト発見を促すことが出来る。

3.経営資源の共有

社内では驚く程多くの検討がなされているが、それぞれのプロジェクト間で情報やネットワークを共有していないということは多いのではないだろうか。そもそもあるプロジェクトが検討段階から実際に参入をし、会社の事業部として確立するまでに至る確率は高いものではない。多くのプロジェクトは途中で頓挫することになる。
ただし、頓挫したプロジェクトも全てが無駄ということではない。その過程では多くの情報、知見、ネットワーク、技術等を入手しているはずである。このような複数のプロジェクトに取り組む過程で構築された資源を資源として活用するには対象領域は絞れていなくてはならない。
最終的な事業成功に至らなかったとしても他事業に対して資源をパスすることが可能となる。

領域の発見方法:

残念ながら、特定の方法でウォーターフォール型のプロジェクトを組むと自動的に有望な領域が発見されるということはない。対象領域を設定することはビジョンを含めた長期戦略を描くことであるため、特定の分析を経れば導出出来るという主張が成立しないのは妥当だろう。

書籍中において取材をした企業らが自社の領域を定めた方法も多くの偶発的なプロセスによるものであった。

儲かっている先行者を知ったことが契機となる企業もあれば(実はこの方法は実用性が極めて高い)、調査を通じ構造変化を発見した企業もあれば、自分の個人的な情熱から始めた企業もある。書籍中では主に4つの発見方法について解説した。

あまり他の書籍で解説される機会が少ないが実用性が高いと感じているのは「儲かる先行者の内情を知ってから始める」である。

特にスタートアップ向けの書籍では、課題起点のアプローチが強調される傾向にある。競争環境があまりに熾烈であるため、先行者など見ていては即座に参入機会は閉鎖される状況であれば顧客のみに導かれて参入するということは考えられるが、通常の競争環境下はヒントを大量にくれる先行者が存在する。

先行者が儲かっており、成長しているということはある領域において需要は十分に強く、また収益性が高いビジネスを先行者が発見してくれているということである。自社が自分の能力を活用し、既に存在することが証明されている「強い需要」を捉えることを検討するというプロセスは妥当である。また、需要が高い領域において「他社と全く異なるサービスを販売する」ことは参入時点で必須なわけではない。
むしろ過度に差別化を重視すると顧客から見た価値という観点を犠牲にすることが多い。「他社と異なる(差別化がなされている)」ということは「売れる(顧客が価値を感じる)」ということを必ずしも保証しない。

一点注意を述べるなら「個人的な情熱から始める」のであれば少なくとも10年はやり続ける覚悟を持つべきということである。yutori片石氏の発言で印象的であったのは「簡単な調査を通じて、儲かると言えるレベルのものを継続的に発売するのは困難。自分は15歳の頃からアパレルの世界に浸かっており、簡単な調査でそれを代替出来るものではない」ということである。

このような情熱を持った人間らがひしめき合う領域において「生活をする中で偶然興味を持ったから、調査をしてみた。試験的に参入してみる」(プロジェクト期間は3-6ヶ月)と考える新規参入者では全く通用しないことは納得出来るのではないだろうか。

現在の能力起点ではなく、個人の情熱から始めるということは初期使える競争力は自分の情熱しかない。それは十分な水準にあると言えるだろうか。これが十分と言えるならばyutori、プログリット、アカツキが実現した情熱起点の参入を実現出来るかもしれない。

それぞれの手法やその事例に関しては書籍中で詳しく述べたので「どのようにして自社にとっての事業領域を発見するべきか」の参考にして欲しい。

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